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バカ、おまえとキスしてどうするんだよ。(31)



 強引だとかなんだとか言われても。
 これが俺のやり方なんだから、それはもうたぶん変えられない。
「……なんですか。今日は女の子とデートですか?」
 部屋にやってきた俺の顔を見るなり、悟郎はそんなことを言った。押し付けるように悟郎にコンビニの袋を渡しながら俺は顔をしかめる。
「なんでデートって話になるんだよ」
「飲み会のときは大概顔真っ赤にさせて来るから」
 鋭い指摘だ。
 里花子と飲んだ帰りだった。俺は終電が終わる時間を見計らって、悟郎に電話をかけた。悟郎はちょうど家に帰ってきたところで、終電がもう終わるから泊りに行っていいかと問えば、数秒間の沈黙のあと「別にいいですよ」と悟郎は返してきた。
「デートじゃねえよ、里花子と飲んでたの」
「……へえ、里花子さんと」
「なんだ。文句あるのか」
「文句なんて言ってないですよ」
 悟郎はいつも通り淡々とした調子で、コンビニの袋からビールを取り出して一缶は俺の目の前のテーブルに置くと、すぐに自分の分のプルタブを開けながら、部屋の奥へ移動している。俺も缶ビールを片手にその背中を追いかけて、いつも通り勝手にベッドの上に腰掛けた。……いつのまにか宿泊代=ビールがスタンダードになっている。
 悟郎はなにかの作業途中だったのか、ベッドの奥に置かれたデスクのPCの前に座っていた。画面に向かってキーボードを叩きながら、悟郎が口を開く。
「で、なんでわざわざ里花子さんとのデートの後に来るの。終電乗れなかったなら、そのあたりのラブホでも行けばいいじゃないですか」
「なんで俺が里花子とラブホ行かなきゃいけないんだよ」
「……親しい男女の正しい行き先でしょ」
 ときどきこいつ変なこと言うよな。それは一体どういう〝正しさ〟なんだろう? とりあえず俺は誤解を解くよう言葉を重ねた。
「付き合ってないのにラブホは行かないだろ」
「付き合ってないの?」
「だから付き合ってねえって!」
「なら付き合えばいい」
「──は?」
 あまりにも悟郎がさらりと言い放ったので、つい反応が一瞬遅れた。本気で言っているのか? この間から、彼女を作れとか、そんなことばっかり。俺は顔を歪めた。
「なんでそうなるんだよ」
「だってその方がいいでしょ」
 PCを前に背中を向けたまま、悟郎が言う。胸の奥でなにかがざわついて、缶を持つ手に自然に力がこもった。



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